モーツァルトやベートーヴェンなど、古典派のピアノ・ソナタはピアニストにとって必ず通る道だと思いますが、ソナタの歴史を眺めていると、バロックから現代まで、こんなにまで画期的な変化を成し遂げ、色とりどりのものがあるのかと改めて感心させられます。
これまで私はベートーヴェンの全ピアノ・ソナタ・シリーズ、そして印象派や国民楽派などのレパートリーを含めたFour Elements のシリーズを行ってきました。
それらを経て、今度はソナタというテーマに基づき、様々な時代を歩む作曲家の限りない世界に挑戦したいと思います。
若さと意欲に溢れるものを紹介し(第1回)、“幻想”という自由な構成と想像力を楽しみ(第2回)、“変奏”の複雑にして、一つのテーマというところから生まれる多彩なアイディアに触れ(第3回)、単一楽章で一つの大きなストーリーを語る革命的な道のりを歩み(第4回)、そして巨匠たちの晩年のこの上ない深遠な世界(第5回)でその旅を締めくくりたいと思います。
今私は40歳へと向かっていますが、そこを通りすぎたとき、音楽家としての成長において確実に得られるに違いないものを目指しています。
その中で、シューベルトのソナタは大きなゴールの一つです。何故なら、これほどまでに人間の心の奥深くまで探る旅は他にないからです。
闇、悲しみ、孤独、その深淵の世界の先には必ず美しいものもあり、その共存にはこの世界の哲学があると思うのです。
ソナタという一つのジャンルから、限りなく多彩で冒険的な音楽と出会い、そしてその奥深い世界を皆さまと探る5公演を、楽しくも実りのあるシリーズにしたいと思います。
小菅 優